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プロの意見箱

「全国暴力追放運動推進センター」

2005年6月
暴力団対策における被害者・離脱希望者等に対する先行的支援活動の意義
〜暴力団組織の根絶へ被害申告・情報提供・相談・離脱等を促進させるために〜

全国暴力追放運動推進センター
中林 喜代司


 T はじめに
 本稿では、筆者の警察(暴力団捜査・同対策)及び全国暴力追放運動推進センター(以下、都道府県暴力追放運動推進センターを含め「暴追センター」という。)における実務経験から、暴力団対策において最も必要性を感じている、暴力団の組織根絶へ向け暴力団犯罪の被害・情報等の届出、暴力団員の組織離脱、暴力団排除活動等の促進を図る観点から「暴力団に関係する被害者・情報提供者・組織離脱希望者・排除活動従事者及びその近親者等(以下、「暴力団被害者等」という。)に対する先行的な支援活動の意義」について、警察、暴追センター等の活動を中心に私見を述べることとする。

 1 「泣き寝入りさせる」融合暴力構造
 暴力団対策の最終目標は、暴力団組織の壊滅と組員の更生である。
 暴力団問題は、戦後常に国の重要な治安対策にとりあげられており、暴力団の直接取締制圧と暴力団排除活動を連動して推進されている。
 平成4年3月に至り、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(以下、「暴対法」という。)が施行され、暴力団を法律上「反社会的集団」と位置付けるとともに、新たな行政規制の網にかけたことで、一気に暴力団を排除する意識が国民に浸透し、暴力団の社会的孤立は深まり、組織の高齢化が進んでいる。
 しかし、暴力団は依然としてこの社会に存在する。平成16年末現在、組員と準構成員の総数は8万7000人で、9年連続増加(平成17年2月警察庁発表)している。その姿を不透明にして資金獲得活動を巧妙化させ、ここ数年、急増している振り込め詐欺、偽造カードなど新手の犯罪に関与していることも懸念されており、治安悪化の元凶にもなっている。また、一部追い詰められた暴力団は、暴力団排除運動のリーダーに対して牙をむくなど悪質を極めている。
 暴力団は組を名乗り看板を掲げ市民の生活と接して存在している中で、その歴史的印象から受ける怖さとともに暴力団の威力をバックに暴力の危険性を社会に見せ付けている。その融合暴力のイメージが市民の意識にいわゆる「お礼参り」等の恐怖心となって浸透し、暴力団名だけで市民を威嚇するまでになっており、被害者等が後難を恐れて届出をためらったり、協力を躊躇したりする大きな要因となっている。暴力団は、暴力をバックに加害不正行為をなし、かつまた、その暴力装置を巧みに使って被害者等を「泣き寝入り」させている集団といえる。
 また、その「暴力装置」は暴力団員の離脱と社会復帰をも阻んでいる。更生の志がありながら、暴力団社会特有の掟や暴力を伴う残忍な制裁により断念し、更生をあきらめている組員も暴力団の被害者といえる。
 暴力団研究を専門領域とされている麦島文夫博士は、「暴力団が無くなる気配を見せていない原因の一つには、市民の暴力団に対する態度があるようです。調査をしてみると暴力団はどうせ無くならないとあきらめ、暴力団への怒りが極めて少ないようでした。・・中略・・暴力団の存在に対してもっと怒るべきでしょう。それなくして暴力団は無くなりません。」(社団法人被害者支援都民センター機関紙7号掲載の「寄稿文」抜粋)と指摘している。

 2 国民的課題となった被害者支援
 ところで、昨年4月、暴対法の改正で、指定暴力団の対立抗争等に関して、末端組員が他人の生命・身体や財産に損害を与えた場合、被害者は以前より簡易な立証でその組の代表者等に損害賠償責任を問える制度が新設された。同年11月には、山口組傘下の組員に抗争相手と間違えられて射殺された被害者の遺族が、警察をはじめ弁護団、暴追センター等の保護支援に支えられ、日本最大の暴力団組織を相手に損害賠償請求訴訟を提訴して6年余、その頂点の組長に「使用者責任」を認める最高裁判決を勝ち取るなど、一段と被害回復救済支援の輪が広がっている。
 また、同年6月、「総合法律支援法」が公布され犯罪被害者等の援助等に係る態勢の充実が図られ、同年12月、「犯罪被害者等基本法」が成立し犯罪被害者支援は国・地方公共団体・国民の責務とされ、相談及び情報の提供や安全の確保等の基本的な支援項目が示された。
 そして、今年1月、国家公安委員会は平成14年から16年までを評価期間とした「警察の被害者対策の推進についての総合評価書」をまとめ、暴力団犯罪等警察の被害者対策全般について一定の評価と今後への反映の方向性を示した。
 被害者等に対する支援の取組みが国民的課題となって高まり、各方面で仕組みづくりがなされている。

 3 なぜ先行的支援が必要なのか(暴力団への対決姿勢)
 我々は、被害者等に対する支援が大きなうねりとなっているこの現状を、暴力団対策においてこそ厳しく受け止めなければならない。従来以上に踏み込んだ被害者等に対する身辺の安全確保と各種支援活動を実践することによって、暴力団に関する被害の申告・情報の提供・組織離脱・排除活動等について市民社会からの積極的な協力を獲得しなければならない。暴力団との対決姿勢を堅持し、市民や被害者等が暴力団に対して抱く「不安感」「ストレス」等を先取りした意識を傾注してタイムリーな支援を施し、「泣き寝入・あきらめ」構造を打破しなければならない。
 暴力団被害者等の個々の事情に即して、不安感等を払拭する情報連絡・警戒支援を先行的に施すことで安全・安心を確保する。その過程のコミュニケーション等により信頼関係や勇気が醸成され共に闘う対決姿勢が堅持されていく。それらの「人」の勇気ある行動によって暴力団に関する被害申告、情報提供、暴力団員の組織離脱等が促進され、その積み重ねにより暴力団組織根絶への道程が着実に進展するものと確信する。
 被害者支援のうねりをエネルギーとして、暴力団被害者等の「人」の心情に即した支援活動が個人プレーでなく総合的・組織的に実践されるシステムとなって関係機関に定着していくことが強く求められる。


 U 警察・暴追センター・弁護士の支援活動
 警察、弁護士、暴追センターのそれぞれが持っている機能を高度に活用した保護支援活動を実践するため、まず、三者それぞれの保護支援活動に関係する基本的事項を確認しておくこととする。
 三者の連携による取組みについては、特に、民事介入暴力対策において各都道府県単位で「三者協定」が締結され定期的な研究会等がもたれる等、進展が見られるところである。

 1 警察の支援活動
 警察は、被害者等の保護支援については組織を挙げてやり遂げなければならない中心的な課題として位置づけ、保護対策実施要綱や被害者対策要綱を制定しているほか、暴力団情報の部外への提供についての判断の基準を定め、暴力団相談体制を整備している。
 また、従来、身辺の保護に重点を置いていたのに対し、暴力団を相手方とする民事介入暴力や民事訴訟においては、暴力団被害者等が対等な私人間の関係を築くのが困難な状態となっていることから、弁護士、暴追センターと連携するなどしてそれらの支援活動にあたっている。
 (1)保護対策実施要綱
 暴力団員等による危害を未然に防止するため実務上の基本的事項を定め、制度として確立、被害者等の保護支援について定着させている。
  同要綱では、保護対象者、基本的配意事項、保護対策責任者等の設置、ぐ犯者の抽出と動向の把握、保護対策計画の策定、保護区分、連絡の励行、周辺住民等への協力依頼、広域にわたる保護対策の実施等について、暴力団の特殊性をふまえて具体的に規定している。
 (2)被害者対策要綱
 警察の被害者対策全般について制定。警察が、被害者の置かれている現状を踏まえ、被害者の視点に立った各種の施策を総合的に推進するにあたっての指針を示している。
  同要綱では、被害者対策の基本的考え方としてー・警察目的の達成・被害者の協力確保・被害者の人権の尊重、被害者対策推進上の基本的留意事項としてー・被害者のニーズへの対応・総合的な施策の推進・重点的な施策の推進・他機関民間団体等との連携・各都道府県警察における独自施策の推進、被害者の救援としてー・被害者への情報の提供・被害者の精神的被害の回復への支援・被害の補償回復、捜査過程における被害者の第二次的被害の防止軽減、被害者等の安全の確保としてー・暴力団犯罪の被害者等の安全の確保・女性警察職員による被害相談体制の整備・生活安全情報の提供相談の強化等、被害者対策推進体制等の整備等について具体的に示している。
 (3)情報の提供と相談受理
 市民や企業は、暴力団の存在に脅威を感じていることから、暴力団等に関する動向情報は警察から積極的に提供されるべきである。暴力団被害者等がその実態を理解せずして被害回復や二次被害の防止等は図れない。また、暴力団情報を適切に提供する支援活動は、被害者等をはじめ市民や企業の暴排意識の高揚と被害申告・情報の提供等の促進につながる。
 警察庁は、国民を暴力団による不当な行為から守るとともに、社会から暴力団を排除するため、「暴力団排除等のための部外への情報提供について」判断の基準を定め都道府県警察に対して通達するとともに、同庁ホームページにおいてもその内容を公開している。
 また、暴力団相談体制を整備して、お礼参り等を恐れて届け出を渋る状況をカバーし相談等のしやすい環境を整え、「暴力相談窓口」を開設、電話やメールによる相談を常時受け付けている。
 (4)民事介入暴力・民事訴訟等支援
 暴力団被害者が暴力団を相手方とする民事介入暴力や民事訴訟においては、対等な私人間の関係を築くのが困難な状態となっていることから、警察は、弁護士、暴追センターと連携するなどして被害者等の支援活動にあたっている。
 また、暴力団被害者等が民事訴訟において、暴力団該当性などの挙証において他に方法がない場合に、情報の提供などの支援を行っている。

 2 暴力追放運動推進センターの支援活動
 暴追センターは、暴対法により公安委員会が全国と各都道府県に指定した法人である。暴力団員による不当な行為の予防に関する知識の普及及び思想の高揚を図るための広報活動を行い、暴力団員による不当な行為の防止に関する民間の自主的な組織活動を支援し、暴力団排除活動の中核として、相談事業、不当要求防止責任者講習の実施、少年に対する暴力団の影響を排除するための活動、暴力団から離脱する意志を有する者を助けるための活動を行うこと等をその役割としている。広く、相談・啓発活動を行い、暴力団組事務所撤去活動の支援、暴力団被害者に対する見舞金の支給、暴力団を相手とする民事訴訟費用貸付等の事業を行っている。
 暴追センターは、民間活力を結集して暴力団被害者救済の中心となって、警察・弁護士・関係機関等と強力なネットワークを構築し、暴力団排除に向けて連携と総合的支援活動を推進するものであり、暴力団被害者等への保護支援について、以下のような積極的な対応を行うことが期待される。
 (1)相談・啓発活動による被害者等の精神的ストレスの除去と精神面のフォロー
 暴追センターの業務である相談活動を通して、不法勢力の実態を説明、個々の事情に即した具体的危害を予測しその対処方法等の教示、警察・弁護士への的確な引継ぎ等を行うことによって、被害者等が抱いた幻影や不安感を払拭することができる。誤った観念や過剰な恐怖感をもつ被害者等については、それらを一掃する支援活動が求められるところ、暴追センターが発行している広報・啓発冊子等の資料を活用した啓発活動を推進することがそれらの払拭につながるといえる。
 (2)保護資器材の貸出し
 暴力団員から危害を防止するための支援・救済活動における、緊急通報・警戒・保護連絡用の資器材の貸出しを行う。
 (3)警察等他機関への通報
 暴追センター活動を通じて、早期に支援をすべき対象や危害等が及ぶ可能性など把握できたことを警察等他機関へタイムリーに連絡する。
 (4)避難場所等の紹介・斡旋
 暴力団員からの危害を防止するため、一時的避難場所としての居所の紹介や斡旋を行う。
 (5)見舞金の支給
 暴力団員の不当な行為による被害者等に対する見舞金の支給を行う。
 (6)民事訴訟支援活動及び訴訟費用の貸付
 暴力団員を相手とした民事訴訟について、弁護士等の紹介などの支援及び訴訟費用の貸付を行う。
 (7)民間警備委託
 暴追センターが自治体の補助金などの資金により、民間警備委託による保護対象者及び関係個所等に対する警戒支援を行う。
 《事例1「民間警備委託」により暴追運動リーダーを保護支援》
 A県暴追センターは、同県内に勢力を有する指定暴力団B会系組員が同県C市内の暴追運動リーダーの経営する飲食店を襲撃し従業員を負傷させた事件につき、民間の暴追運動を支援するため、同県の補助金により同センターを事業主体として、同リーダーら被害関係者及び関係個所に対して民間警備委託による警戒を実施するなどの保護支援を展開した。
 (8)新たな民事訴訟支援制度導入の検討
 暴力団被害者等が直接に暴力団員を相手方として訴訟提起する場合の精神的負担を軽減するため、暴追センター等の機関が当該暴力団被害者に代わって被害回復等のため訴訟を提起するという新たな民事訴訟支援制度の導入が議論されている。

 3 弁護士の支援活動
 弁護士は、警察、暴追センターとともに共同して暴力団に立ち向かい、特に、民事介入暴力等の分野においては、積極的に被害者を救済しなければならない。しかしながら、弁護士は、警察のように強力な組織と権限を有するわけではなく、むしろ、民事介入暴力被害者とともに暴力団の攻撃対象とされ、身辺警戒・保護の対象者でもある。
 しかし、弁護士には、被害者等の保護支援について、以下のような積極的な対応を行うことが期待されていると考える。
 (1) 弁護士自身が心に勇気を持ち、被害者等の心に勇気を与えること
 社会正義の実現と人権擁護等をその使命とする弁護士にとって、不正を許さない勇気は、特別な意味を持つ。弁護士自らが不正を許さない勇気を持つだけでなく、被害者等の心に勇気を与えることが求められる。
 そして、被害者等の不安の原因を取り除くため、相談に親身に対応し、被害者を安心させ明確な答えを提供することに努めなければならない。この点で、特に、各都道府県の弁護士会民事介入暴力対策委員会に所属している弁護士の熱心な取組みが見られるところである。
 (2) 弁護士相互及び関係機関との連携の必要性
 弁護士は、被害者等に明確な答えを提供するために、平素から警察や暴追センター、弁護士会の民事介入暴力被害者救済センターなどの関係機関(以下、「警察等」という)と連係を図る必要がある。事案に応じて、被害者等を警察等に同道し予想される被害者等への加害予想等を説明、警察等の理解を得て、その万全を期さなければならない。
 そして、弁護士自身の安全の確保について、自ら細心の注意を払い慎重に判断対応するとともに、暴力団の動きをいち早く察知できるような態勢を構築することが望ましい。
 ある暴力団組長の責任追及訴訟において、弁護団や本人に対し暴力団の攻撃が十分予想されたため、弁護団では保護支援連絡担当弁護士を指定、日常の業務や生活の中で少しでも不審な点が発生した場合には、その情報が同弁護士のところに集中するという態勢をつくり、その情報を分析して保護支援が必要となれば、弁護団の全弁護士等に通報するとともに、警察等に連絡して保護支援対策を取るという態勢を作ったと聞いている。暴力団排除活動担当者自らの保護支援のあり方として参考になると考える。

 4 警察、暴追センター、弁護士連携による支援活動
 暴力団対策においては、警察措置に加えて民事上の対抗手段を的確に講じていく必要がある。
 警察活動に暴追センター・弁護士等の民間活力の結集を加え、三者が連携して実践することにより、暴力団被害者等に対する保護支援活動の進展が見られるところである。
 平成10年から、各都道府県の警察、弁護士会、暴追センターにおいて民事介入暴力事案に共同して対処することを申し合わせた、いわゆる「三者協定」が交わされている。そして、平成12年から、その情報交換等を定期的に行う「民事介入暴力対策研究会(連絡協議会)」が設立されるようになり、現在、全ての都道府県において設立されるなど三者間で活発な連携活動がなされている。互いの立場等の違いを理解しつつ、暴力団排除の共通目的達成とその被害者等の支援という共通目標達成に向け、随時、協議、連携を積んでおり成果を収めている。


 V 先行的支援活動のあり方
 次に掲げるように、まず「保護支援対象の早期選定」について触れ、「保護支援の形態」を分類して説明する。次に「暴力団対策の目的に応じて要請される支援活動のあり方」について事例や教訓を交えて詳述。最後に、先行的保護支援が「システムとして構築されている」事例を紹介することとする。

 1 支援対象の早期選定
 保護支援を要する対象者については、単に暴力団事件の被害者や参考人に限定することなく、被害者層(暴力団のターゲットとなりやすい業種・業界・地域の個人・法人関係)、暴力団排除活動関係者・情報提供関係者・暴対法運用関係者・事件に携わった司法関係者・報道を行った報道関係者・暴力団離脱に係わった者等の本人及び近親者や従業員等と広い範囲で捉える必要がある。また、再開発(予定)地区の暴排活動のような場合は、計画段階等の早い時期から、開発・工事関係者・入居予定者等に対して、順次先行的な支援対策を講じなければならない。
 特に、「泣き寝入り・あきらめ」により潜在している被害者等については、有効な視察計画(金脈・人脈の解明による把握等を含む)に基づく情報の収集をはじめ、相談事案・暴力団事件、すべての警察活動とリンクした関連情報、及び自治体・町内会等の地域や同一業種等職域の個人・関係団体に対して関連情報をタイムリーに発信することにより得られる情報の集約、分析により、保護支援対象者をより早く発見し、その開始時期・方法等について的確に判断、先行的な支援活動に移行できるようにすることが求められる。
 事案の形態・背景・事情や対象者の立場や心情などによって事件・事案は千差万別である。
 したがって、一概に客観化・具体化した事項をもって判断することは困難であり、また、かえって対応がマニュアル化・硬直化して実態にそぐわなくなるおそれもある。保護支援要否の判断は、広く一切の事情を総合的に考慮し、柔軟に判断すべきものと考える。
 暴力団被害者等の安全・安心を確保することが前提となって実効が挙がるこの問題については、それぞれの事案等の背景・経緯・現状を集約分析し、被害者等にとっての阻害要因、特に、危害を加えるおそれのある者をいち早く確実に抽出し、動向把握と関連情報の収集に努めるなど、保護支援対象者を広い範囲で捉えて決定しなければならないと考える。そして、保護支援を施したその後においても事件・事案・両対象の推移・状況等を随時分析し多角的に検討を加え、保護支援対象の範囲、連絡方法、支援の密度等を決定するなど両対象の変化に即して判断していくべきものと考える。

 2 支援活動の形態
 (1)情報提供(発信)・相談(受信)活動
 被害者等に対する関連暴力団の動向等の情報提供や暴力相談受理は、保護支援の実践において主流をなす活動である。支援対象者に対して、個々の事案に応じ適時に適切な暴力団関係情報を発信することは、融合暴力イメージ等によって抱いている暴力団への恐怖心を払拭することとなり、暴力団被害者等をはじめ市民の暴力団排除意識を高揚させる。併せて、メンタルケアを含めて広く相談を受ける等のコミュニケーションを実践することによって安心感や勇気が醸成される。
 相談活動においては、相談を積極的に受け入れる「出前型」の相談や相談をしやすい環境をつくることが必要である。相談専用の「電話」「ファックス」「メール」「ホームページ・リンク」等による受け入れは、24時間対応の「ホットライン」「駆け込み寺」となる支援活動である。相談の内容において、「事件未満の暴力団事案」を含め幅広い相談に応じている暴追センターの役割は大きい。
 また、暴力団抗争事件発生地域等においては、住民の不安感を先取りした集会を開催するなどして暴力団情勢と事件の見通し等の情報を提供するなどの支援活動に努める必要がある。
 現在、平成18年秋の業務開始を目途に「日本司法支援センター」*注5*の設立準備作業が進められている。これを機に、警察・暴追センター・弁護士と他機関の「相談窓口」を含めたネットワークの強化による、「相談から解決までの組織的支援」の確立が求められる。
 (2)身辺の安全確保活動
 暴力団被害者等及びその親族・従業員等の身辺の安全確保は、最優先される支援対策である。
 主に警察活動により実施されるが、暴追センターの支援事業として民間警備業者との契約による民間警備員により実施する場合(前記《事例1》参照)や、監視カメラ、緊急通報装置など資器材を利用する場合がある。
 立寄り、連絡、固定配置、流動警戒等の警戒体制により、保護対象者の生命身体財産の安全を図るとともに、身辺警戒・保護対象者に危害が及ぶ可能性の程度に応じて、連絡・ 警戒・保護態勢を確立する。
 又、暴力団抗争による関係個所の警戒活動にあたっては、張付け警戒場所や方法の選定など市民の理解と協力を念頭においた安全確保が求められる。
   警戒活動
 制服または私服員(警察官・警備員等)が固定、遊動、立寄り等により警戒にあたる。連絡を緊密にするためパトロールメモ等を活用する。
   身辺保護付添活動
 主として私服員(警察官・民間警備員等)が身辺保護、付添警護にあたる。
   広域連携活動
 被害者等の居所、勤務地等の行動範囲が広範囲に及ぶ場合、数都道府県警察等が連携して警戒にあたる。
   資機材利用連絡・警戒活動
 保護対象者側の異変認知の有無にかかわらず24時間、死角なく警戒に間隙を生じさせないためには、マグネットセンサー等の感知用機器類、監視カメラ、及びそれらに連動する通報装置などの資器材を利用して連絡・警戒にあたることが必要である。例えば、先ずCCDカメラを設置して、不審者による下見行為等をチェックすることによって、保護対象者並びにぐ犯者の抽出を行うことができ、次の段階の身辺警戒・保護連絡を実行することが可能になる。
 これら資機材の積極的活用と並行して、新しい装備資機材の開発へ向けた取り組みがいっそう求められる。
   連絡・自主警戒指導活動
 連絡を密にして自主警戒要領の指導を行い、保護対象者側の自助努力により警戒にあたる。
  状況により前記それぞれの警戒を併せて行う。
 (3)指導・助言・啓発・激励活動
 暴力団員等からの不当要求防止、危害予防等に必要な対応要領、「お礼参り」や再被害の防止のための指導・助言をはじめ、暴力団に対する問題意識の欠如や信用失墜、自己保身などによる「発覚を恐れる気持ち」から、被害申告等を伏せる個人や企業に対しては、事案に応じた啓発・激励等を交えた保護支援を講じなければならない。誤った観念を払拭するためには、被害者等の当事者が信頼する友人や知人、近親者等も交えての助言・激励等の支援活動を加え、説得をすることが必要である。
 これらは、企業の暴力団との関係遮断活動において特に必要である。従前からの関係を断ち切ることによる報復を恐れる企業関係者の「立場と心情」を理解した保護支援活動がよりいっそう求められる。関係者及び法人・企業の安全を先行的に確保、名誉、信用の保護にも充分に配慮し、前記(1)(2)の支援活動と並行して実践することとなる。
 平素、警察と暴追センターが実施している地域・業界等で組織されている協議会との連携や企業パトロールによる指導・啓発活動は、有効な先行的支援活動である。緊密なコミュニケーションによって信頼関係や暴力団排除への団結と勇気を醸成している。
 また、不当要求を受けた場合の被害の回復の交渉にあたっては、被害回復アドバイザーによる助言等の支援活動がある。
 (4)経済的支援活動
 暴力団被害者等に対する見舞金の支給や暴力団員を相手取った民事訴訟の費用の貸付等による資金援助活動であり、暴追センターにおける支援事業の一つである。
 特に、暴力団トップに対する使用者責任追及等の被害回復や、暴力団の組事務所撤去訴訟等、暴力団対策上新たな武器となっている民事訴訟提起においては、被害者等の経済的事情による「あきらめ」を排除するため訴訟支援資金の援助は欠かせない状況である。
 また、暴力団離脱者に対する緊急の援助を必要とする場合、暴対センターの事業による更生援助金の支給制度がある。
 (5)暴対法による援助活動
 暴対法は、同法13条によって、指定暴力団等の暴力的要求行為等に対し都道府県公安委員会が中止命令又は再発防止命令を発出した場合、暴力的要求行為等の被害者の申出により、当該公安委員会が必要な援助を行うものとして、被害回復交渉を円滑に行うために必要な事項の連絡・助言、命令に係る指定暴力団員の連絡先の教示、暴追センターの救援事業についての教示、被害回復交渉等を行う民間団体その他の組織の紹介、被害回復交渉を行う場所としての警察施設の利用の援助等を定めている。
 また、同法14条によって、事業者自身が暴力団の不当要求による被害を防止するため、都道府県公安委員会が行うものとして、事業者自身の被害防止の役割の教示、不当要求防止責任者の選任について事業者が配慮すべき事項についての資料提供又は助言、責任者講習についての教示、暴力団若しくは暴力団員の活動状況又は不当要求の実態についての教示、不当要求を受けた場合の警察等への連絡方法についての教示等について定め、被害回復アドバイザーを設置している。
 これらのうち、不当要求防止責任者に対する講習については、都道府県公安委員会の委託事業として、警察と関係暴追センターが連携して暴力団排除の啓発をはじめ不当要求の手口、被害の未然防止、被害対応等について教示しており、有効な先行的支援活動となっている。
 (6)ネットワークによる支援活動
 暴力団追放に必要な力は、市民一人一人の中にある「暴力団への怒り」であり、彼らを包囲し立ち向かう「勇気」である。その「怒り」や「勇気」を集結させた「団結力」は暴力追放の力となり、暴力団被害者等へ勇気を与える大きな支援となる。
 暴追センターを中心に次々と結成されている地域・職域の暴力団排除組織と警察や弁護士そして行政機関等とのネットワーク(連携)による暴力団排除運動の推進は、暴力団被害者等のニーズにこたえる支援活動につながる。
 (7)離脱・居住・雇用支援活動
 暴力団員が社会復帰を真剣に希望するタイミングをはずすことなく、離脱・居住・雇用等の支援を施しながら更生へと導く活動である。
 離脱希望者を更生させることは、暴力団組織内の不正告発をも促し、一気に組織を壊滅させる切り札ともなるだけに、極めて重要な支援活動である。
 社会復帰アドバイザー*注9*をはじめ、警察、暴追センター、関係弁護士を中心にして、居住先、雇用先の確保のために連携を強化しなければならない。
 各都道府県単位に暴追センターが中心になって組織されている「暴力団離脱者社会復帰支援協議会」の連携を更に充実させることが求められる。

 3 暴力団対策の目的に応じて要請される支援活動
 次に掲げる主要な暴力団対策上の目的の分類に従って、要請される先行的保護支援活動のあり方を事例と教訓を加えて説明する。
 それぞれの目的、対象者の状態、に応じて、前記2―(1)〜(7)の支援活動を状況により組み合わせ実践する必要がある。特に同2―(2)の情報の発信、同2−(3)の啓発等を先行的に行い、被害者等の負担や不安感を除去し、信頼と勇気を醸成、暴力団対策の目的に応じて強固な協力関係を堅持しなければならない。
 (1) 暴力団(刑事)事件の情報入手・被害届受理・公判維持・有罪獲得・長期隔離事件(端緒)情報の入手、被害届の受理、事件の立証、公判対策(証言)、長期隔離のための悪性立証など有罪獲得までには、情報提供者・被害者・証人等多くの「人」の協力の堅持が必要になる。
 それらの「人」に対し、前記2―(1)〜(7)のすべての支援活動を状況によって様々に組み合わせ実践する。同2―(2)の情報の発信、同2―(3)の啓発等のコミュニケーションにより、被害者等の不安感等を除去し、信頼と勇気による被害・情報申告等の促進を図り協力関係を堅持する。
 その活動の過程において、対象者らから暴力団事件情報(端緒)等がもたらされるところであるが、特に、信用失墜を嫌う企業等は、単に報復を怖がるということより事件化されることによる社会的ダメージを恐れて隠ぺいする傾向が強いので、そのような事情を配慮した情報発信と啓発活動を主流にした保護支援活動が必要となる。
 《事例2「平素の保護連絡活動」による信頼関係から別の暴力団事件情報を入手》
 <保護連絡による信頼関係・勇気の醸成>
 A警察署B部長刑事は、某日、C警察署からの「Y組三次団体組長らによる恐喝事件被害者の保護連絡」依頼に接し、その後、定期的にA署管内に居住する被害者である不動産会社D社長宅へ立ち寄り、同人や家族の心情を理解した暴力団情勢、特にY組三次団体組長らの動向情報を提供しながら、警戒・連絡方法などを助言するなど、先行的な保護連絡にあたった。B部長刑事は、それらのコミュニケーションを通じてD社長はじめ家族の信頼を得るところとなった。
 <新たな暴力団情報(事件端緒・動向)の入手>
 某日、D社長は平素の御礼かたがたA警察署B部長刑事を訪ね、不動産業界への暴力団介入の動向情報をはじめ、同業者E社長の被害にかかるS会二次団体組長らの多額恐喝事件情報(端緒情報)を提供した。裏づけ捜査の結果、S会二次団体組長ら5名を検挙し、有罪判決を得るところとなり、同組織に壊滅的打撃を与えた。
 <教訓事項>
 平素、検挙警察署と被害者の居住・勤務地等警察署間で連絡を取り合う「保護連絡」は、警察活動における被害者及び関係者への連絡活動のありようによっては、先行的な保護支援活動となる。
 A署B部長刑事は、その保護連絡において情報の発信、啓発、相談等の活動により被害者等との信頼関係及び同人らの勇気を醸成したことで、新たな暴力団情報を入手するところとなり、検挙につなげた。B部長刑事は、その成功体験から、保護連絡活動が暴力団対策の原点との強い意識をもち、その後の暴力団対策にあたり同様の先行的保護支援活動を積極的に展開し、多くの暴力団動向情報や暴力団事件の端緒情報を得て、事件の検挙や暴力団対策につなげた。
 暴力団被害者は、その立場と心情の似かよったにところから他の暴力団事件等について、知りうる立場にもあることから、コミュニケーションをよくして信頼関係を醸成し情報を収集する観点が必要である。
 《事例3「都市銀行役員等に対する先行的警戒・保護連絡」により右翼標ぼう暴力団首領らによる不良債権関連事件の銀行捜査を成功させ金融不良債権関連詐欺破産事件に着手》
 <右翼標ぼう暴力団の融合暴力恐怖構造を利用>
 A不動産会社の金融不良債権を巡る同社B社長及びC右翼標ぼう暴力団首領Dらによる詐欺破産法違反(詐欺破産)事件は、B社長がC団体の融合暴力恐怖構造を利用した犯行である。
 C団体は政治結社の届出をなし右翼団体を標ぼうしてはいるが、実態は債権取立てや企業恐喝を企て結成された暴力的団体であり、裁判官拉致事件、市長銃撃事件などの凶暴な事件を敢行しており、金融不良債権問題は行政、金融機関、裁判所の責任問題として執拗な公開質問、攻撃的街宣を繰り返していた。それらの融合暴力は、銀行等金融機関をはじめ企業、行政機関、裁判所等の間に恐怖イメージとなって震撼していた。B社長は、金融ブローカーや暴力団幹部らの紹介によりDに接触、この融合暴力による恐怖構造を利用すれば「銀行も裁判官も手も足も出ないだろう」(本人自供)と考え、当時破産が確定していたA不動産会社及びB社長名義の不動産を銀行等金融機関の債権回収による強制執行から守るため、Dらと共謀、全不動産物件の権利書、賃料振込み預金通帳、実印、銀行届出印等をDに渡し依頼した。
 <卑劣な財産隠しと銀行捜査による詐欺破産行為の立証>
 Dは、配下らと共謀して、A不動産会社及びB社長名義の破産物件であるマンション、駐車場、別荘等の土地、建物に次々と賃借権、所有権移転仮登記等の権利設定をなし、マンション等の賃料収入を得ていた。これらは、破産財団に属する財産を債権者にとって不利益に処分した破産法違反(詐欺破産)に抵触すると認められる事から同法違反で捜査に着手、A不動産会社のメインバンクであり大口債権者でもあるE都市銀行の取引口座の解明により立証することとした。
 <先行的保護連絡・啓発支援による裏付捜査に成功>
 E都市銀行のA不動産会社及び同関連口座の解明と取引明細を捜査するに際し、前記のとおりの融合暴力の恐怖心等の内情や証拠隠ぺい等に配意し、捜査に先行して、捜査主任官たる暴力団捜査主管課の管理官が陣頭に立って、同行頭取以下関係役職員の本人及び近親者の自宅、勤務地の銀行等について、パトロールメモを活用するなどして重点的保護連絡と啓発活動を実施した結果、E銀行の全面的協力を得て保秘が徹底されたうえ、A不動産会社の取引口座の明細を明らかにする事に成功、資金の流れの全容を裏付けた上捜査に着手、B社長、Dら5名を逮捕、関係者全員の有罪を獲得した。
 <教訓事項>
 C右翼標ぼう暴力団首領Dらの過激な暴力的イメージによる捜査協力に対する報復等を恐れている銀行等債権者及び関係先の心情を先取りし、内偵捜査の早い段階において関係者に対する身辺保護に情報発信、啓発等を交えた先行的保護支援活動を実施したことから、銀行等債権者側の保秘と協力が堅持され、事件着手、証言の促進、有罪獲得等の成功につながった。
 また、共犯者としてDらと同時に逮捕されたB社長の親近者の保護支援も実施した結果、同人から完全自供を取り付けた。
 《事例4「被害企業および関係役員に対する先行的保護連絡支援の実施」で業界ぐるみ隠ぺい企業恐喝事件の情報提供と被害届を受理する等の協力を得て事件着手、有罪獲得》
 <業界の談合構造と融合暴力による事犯の隠ぺい>
 各種業界の談合構造が社会問題となっているところ、橋梁建設業界の談合問題を取り上げた、同業界各社宛「談合問題を告発する会」名の「通告書」「最終通知書」と題する文書と大物ブラックジャーナリストが発刊するブラック紙の糾弾記事が出回り、同業界企業が多額の資金を恐喝された旨の噂が流れた。同業界の長年にわたる談合構造は根深いものがあり、情報によれば、業界は億以上の多額な資金を捻出して蓋をしたこと、犯行グループは古参総会屋、暴力団組長、大物ブラックジャーナリスト、元弁護士等が絡んでいる、とのことであり、その融合暴力による関係者のプレッシャーから業界ぐるみの隠ぺいは強固なものと感じられた。
 <業界企業関係者の心情を理解した先行的保護支援活動>
 A警察本部B暴力団捜査主管課長は、同業界各社に対して保護支援活動を先行させた情報収集を指示、その過程で談合資料を持ち出したのはC社の社員であること、業界最大手はD社であることが判明した。そこで、両社のトップ、担当役員、弁護士等とその親近者を含めた身辺の保護連絡と啓発・激励等に最重点をおいた支援活動を指揮した。
 捜査員らが一丸となって、保護連絡と並行して企業担当役員の立場と心情を理解した啓発的支援活動を重ね、粘り強く真相の告白を説いたところ、両社の担当弁護士から「警察捜査は信頼できる。企業トップの決断を得た」として届出がなされ、企業関係者の全面的協力を得て、業界ぐるみで隠ぺいしたC社の多額恐喝事件、D社の恐喝未遂事件を明らかにし、暴力団組長ら9名を検挙、その全員の有罪判決を得ることに成功、同組織は壊滅した。
 <教訓事項>
 裏金を捻出して蓋をした事案であり、報復による危険に加えて、事件にされることで業界の談合体質が明らかになり企業及び業界全体のイメージダウンを嫌っての徹底した隠ぺいが予測されたが、その企業関係者の心情を先取りした先行的保護支援に並行して啓発活動を実践したこと。特に、弁護士に対する身辺警戒と保護連絡による信頼関係の醸成が功を奏したことが、弁護士の勇断を呼ぶこととなり企業トップに被害の届出を決意させた。
 その信頼関係は、事件着手によって社名とともに事件の全容が報道される事態となっても揺るがず、捜査への協力が堅持された。
 企業トップは、「何人もの捜査官から勇気をいただき、決断することができた。そのお陰で以後の不当要求を断つことにもつながった」として、警察の姿勢に感謝の意を表した。
 これらは警察活動が主体であるが、被害者及び事案の性格によっては弁護士や暴追センターとの連携によって、更に効果を上げることができる。
 また、警察活動においては、「もぐら叩き」と批判されるように発生(発覚)対応にシフトされがちであるので、潜在事犯については広く「被害者層」の中から支援対策を実施すべき対象を先行的に選定し、タイムリーに保護支援を実践して事犯を掘り起こす必要がある。
 この取組みへのトップ(主管課長、署長等)の理解と認識が極めて重要であり、平素から暴力団に対する取締り視察計画を練り、先行的な指揮が取れるシステムを構築しておくことが必要である。
 一方、暴追センターや弁護士等の活動の過程において保護支援対策を必要とすべき暴力団被害者等を把握した場合は、早期に警察等へ連絡、相互に連携するなどの取扱いが求められる。
 そして、公判における有罪判決獲得と長期隔離のためには、事件の裏づけ証言に加え暴力団の悪性を挙証する証言を含めた証人の安全と安心を確保することが前提となる。証人等威迫罪が設けられているほか刑事訴訟法の改正がなされ、法廷で証言する「人」の保護を図るため、訴訟関係人や裁判官による安全確保への配慮と尋問制限、法廷と別室をモニターとカメラでつなぎ、別室で証言や陳述をするビデオリング方式などが導入されている。
 被害者・参考人等が証人として出廷する前後を含めた安全確保と不安感等の除去には、警察、検察、裁判所連携による保護支援対策が不可欠である。
 《事例5「先行的保護連絡の実施」と綿密な検事連絡により被害者証言を成功させる》
 <広域暴力団と密接な大物総会屋、社会運動標ぼうゴロによる融合暴力の影響>
 大手A銀行系列B金融会社C社長は、積極的に金融不良債権の整理に着手していた。その中で、100億円余の焦げ付きを出し倒産整理中のD不動産会社について、担保物権の処分等を検討していたところ、D不動産会社側は、同担保物権に後順位で権利設定した大物総会屋F、社会運動標ぼうゴロGらをしてB金融会社C社長に直接面談、権利設定し占拠している物権の立退き料の請求と100億円余の債務を4分の1に減額するいわゆる損切り交渉を執拗に迫った。F、Gは、企業社会においては広域暴力団と密接で株主総会荒らしや不当要求の常習者で知悉されている存在。F、Gはその素行来歴をC社長が知ることに乗じてそれぞれ個別にB社を訪問して、C社長のみに面談し言葉巧みに迫った。C社長がこれを拒否したため、F、Gらは、B金融会社の親会社である大手A銀行副頭取等にも面談、C社長に要求をのませるようけん制的行動に出た。
 <先行的保護連絡と社長供述による被害立証>
 折からこれらの情報をキャッチしたK警察本部暴力団捜査主管課I警部らは、C社長から事情聴取するに際し、先行してF、Gらの企業社会に及ぼしている融合暴力の影響に配意した支援活動をK暴力団捜査主管課長に具申、C社長およびA銀行副頭取に対して、F、Gらの動向情報の提供に加え、同人ら及び近親者の身辺の安全に関する保護連絡をそれぞれの居宅を管轄する警察の刑事課長以下警察署員ときめこまかく実施した。その過程で、C社長の真相を告白する供述が得られ、貸付・返済状況とF、Gらの介入状況を疎明し、債務圧縮損切り及び立退き料請求による多額恐喝未遂事件容疑で事件着手の方針が固まった。併せて検事連絡を綿密に行いC社長の検面調書をあらかじめ作成の後、F、Gらを逮捕した。事件核心の裏づけはC社長の供述のみの状況であった。
 <嫌がらせ事案の発生>
 その後、F、Gらを逮捕勾留中においてC社長宅に、腐った豆腐が配達される事態が発生した。あらかじめ、D不動産会社側の陰湿な報復的行為を予測し、特に、C社長が唯一の裏づけ証言者となることから、同社長及びその家族の身辺保護、同居宅の警戒をS警察の刑事課長らと先行的にきめ細かく実施するとともに、A銀行施設及び副頭取ら関係者等に対する警戒連絡を継続推進中であったため、その事態は即捜査本部の知るところとなった。C社長の公判における被害者証言等が心配された。
 <教訓事項・エピソード>
 保護連絡を実施するにあたって、被害者であるC社長及び同婦人をはじめ家族に対して先行的に、関連情報を提供するなどのコミュニケーションを尽くし、S警察の刑事課長以下同署員も含め一丸となって身辺の安全を確保した上、嫌がらせ事案を想定した保護支援を実施していたため、家族を含めて影響されることは無かった。C社長の公判における被害証言については、その前後の付き添い警戒を含めて家族等への細部にわたる助言等の支援措置により確実な証言がなされ全員の実刑判決を獲得するに至った。
 警察とC社長及びその家族との信頼関係が堅持されたことが、企業社会に融合暴力による恐怖のイメージを強く与えているF、Gらを前にしても被害供述を確実なものにしたといえる。後日、C社長婦人からK暴力団捜査主管課の幹部に「娘の婿さんになる人を紹介してもらいたい」との話があったことは、この信頼関係を証明する明るいエピソードである。
 (2) 民事事件の訴訟準備(運動)・訴訟提起・執行・保全
 民事事件の訴訟の原告となる被害者等当事者に対しては、様々な不安感を払拭し安全を確保する支援に加え、訴訟費用や挙証の手間等の被害者の負担を軽減するなど、個々の事情に応じて手を差し伸べる支援活動が必要である。
 暴力団に対する民事訴訟は、昭和60年代前半から、暴力団事務所の撤去訴訟や不法行為者に対する損害賠償請求訴訟等の形態で提起され勝訴を得ているところである。特に、平成年代になって民法715条の「使用者責任」を根拠に行為組員の上位者に損害賠償を請求するいわゆる「組長訴訟」が多く見られるようになり、前記のとおり、昨年4月の暴対法の改正で指定暴力団の代表者等の無過失損害賠償責任制度が新設された。いっそう、暴力団の違法不当な行為による被害回復のため、暴力団トップへの責任を追及するという社会的要請が高まっている。
 原告となる被害者等は、暴力団組織を相手に、しかもそのトップ等の責任を追及することから報復等を恐れるなど相当のプレッシャーがかかるほか、訴訟費用も必要となる。
 これら被害者である原告や関係者の危険防止の観点から、先行的に保護支援活動を展開するとともに、都道府県暴追センターにおける訴訟費用の貸付等による支援活動が必要である。また、「暴力団被害救済基金」との連携・運用による資金面の支援活動も期待される。
 《事例6「けん銃発砲事件が発生した暴力団事務所周辺住民に対する先行的保護支援と並行してアンケート調査を実施」、同住民らに暴力団事務所撤去の民事訴訟提訴を促して勝訴、撤去に成功》
 <けん銃発砲事件発生の暴力団組事務所周辺の住民は被害者(撤去提訴の原告)>
 A県C市内の暴力団B会事務所(所有者は同会会長の妻名義)に対するけん銃発砲事件発生を機に、C署は同事務所周辺住民に対する保護支援を実施し住民の安全を確保した。A県暴追センターは、E専務理事を中心に同組事務所撤去作戦を検討。その結果、A県暴追センター名で周辺住民に暴力団事務所撤去に関するアンケートを実施することにより住民意識の高揚を図ることとし、C署・A県暴追のセンター・弁護士が連携して事務所撤去運動の支援活動を展開した。
 <アンケート調査による支援活動は暴力団排除への団結力の源>
 アンケート調査の結果、「立ち退かせるべきだ」とする回答が大勢を占めたことから気運が盛り上がり、同組事務所周辺住民らによる「B会事務所の使用閉鎖を求める運動推進委員会」が結成されることとなった。同委員会において、A県暴追のセンターが中心になり同県警、同県弁護士会民暴委員会弁護士と連携し挙証素材を収集、同住民らを原告として「使用差止めを求める民事訴訟」を提訴することに成功した。提訴後A県暴追のセンター、同県警、同県弁護士会が原告住民を支援し裁判を闘った結果、A地裁F裁判所は、住民の人格権への脅威を認定し、B会長らに暴力団事務所として使用してはならないとする判決を言い渡した。
<教訓事項>
 暴追の民活を担う「暴追センター」が中心となってタイムリーなアンケート調査を実施したこと及び警察が中心となって原告住民らの身辺の安全確保にあたったことが、効果的な保護支援となって住民の勇気を醸成することとなり、暴力団自身が所有する建物の使用を差し止めるという困難な訴訟を成功させた。
 (3) 暴力団排除活動の推進
 暴力団追放に必要な力は、市民一人一人の中にある「暴力団への怒り」であり、彼らを包囲し立ち向かう「勇気」である。その「怒り」や「勇気」を集結させることができたときに暴力追放の力は最大限に発揮される。
 暴力団排除運動で追いつめられた暴力団は、時に暴力団追放運動の先頭に立っているリーダー等を襲撃する。市民の暴力団追放運動の熱意を無駄にしてはならない。暴力団追放のリーダーはじめ暴力団排除関係者(警察官・弁護士・検察官・裁判官・暴追センター職員・暴追運動従事者等)及びその親族や従業員等に対して、先行的保護支援活動をもって完璧な身辺の安全の確保を果たさなければならない。
 また、暴力団排除関係者から、「自分はいいが家族や従業員がやられては・・」との声が聞かれるところから、本人はもとより、その関係者について見落としのない、保護連絡・警戒支援活動を先行的に施し、身辺の安全を確保するとともに恐怖心を払拭することが必要である。
 また、暴力団予備軍となる暴走族等非行少年の更生担当従事者(少年補導員等)への安全確保を含めた支援活動も必要である。
 暴追センターは、地域・職域の暴力団排除組織の結成を支援し、暴力団排除活動において警察や弁護士そして行政機関等との連携の中心的役割を果たしており、その連携活動は、暴力団被害者等の「暴力団への怒り」と「暴力団に立向かう勇気」を引き出す支援活動となっている。
 《事例7 「山口組系一力一家の暴力団組事務所撤去運動」〜全国で初めて人格権に基づく暴力団組事務所撤去を求める民事訴訟を提起、請求内容を上回る和解を獲得〜》
 <暴力団排除運動の原点とは>
 暴力団の組事務所撤去を願う住民運動が巻き起こり、建物を所有する暴力団の組事務所を撤去させたいわゆる「一力一家事件」の弁護団として活躍、その過程で暴力団の凶刃を受けながらも訴訟にあたった三井義廣弁護士(日弁連民事介入暴力対策委員会副委員長、暴力団被害者の会副会長)は、平成16年全国暴力追放運動中央大会の特別講演において、「今あらためて考えるー暴力団排除運動の原点とは」と題して講演した。支援活動に関する部分を抜粋し紹介する。
 <暴力団への憤り、怒り>
 「暴力団に刺されて、痛い、怖いと言うよりも、憤り、怒りといったものが強かった。」「訴訟に負けるということは暴力に屈するということだから、とにかく訴訟に勝たなければということばかり考えていた。」「暴力団から被害を受けたときの憤りは、ほかの被害者にも共通していると思う。」「思いだけでは運動はできないし、続かない。勇気を出しなさいというだけでは勇気は出てこない。
 そこで問題は、暴力団を憎む気持ち、憤る気持ち、それをどう維持するかということになるが、そこにあるのは団結力であったと思い返します。」
 <団結力を生む情報・感情・怒りの共有>
 「その団結はどうやって生まれるか。要は情報の共有であるのではないか。暴力団側の情勢、警察の情勢、住民の情勢であり、社会全体の情勢、そういう情報をともに共有しあって気持ちを同じくしていく。更に重要なのは、感情の共有、気持ちの共有であり、一方では暴力団を憎む気持ちを共有することも非常に重要であります。」「もうひとつ大事なことは、暴力団を恐れる気持ちも共有する、だれでも怖いという気持ちはどこかにひそんでいる。ああ、あの人もやっぱり怖いと思っているんだということが分かる。そういう運動になることが必要なのではないか。」「(この運動の)リーダーが、『暴力団に対して何も武器を持たない住民が勝てたのは、団結の力があったからだ、団結力こそ住民の武器だ』ということを言っていたが、まさにそのとおりだろうと思います。」
 (4) 暴力団との関係遮断
 ことに暴力団等反社会的勢力との不透明な関係を続けた企業において遮断を実行することは、役員等関係者にとって相当のエネルギーを必要とすることになる。
 先行的に2−(1) (2) (3)記載の支援活動を効果的に実践し、企業トップ以下関係者の意識や隠ぺい体質の改善、報復等不安感の解消と安全の確保等に取り組む姿勢が必要である。
 過去、実際に、企業役員や家族などが襲撃される事件が発生していることから、それらのイメージから遮断によるリアクションを恐れる等、企業関係者のストレスは大きい。従って、その立場と心情を理解し、先行的なきめ細かな対策を講じた支援活動が必要である。
 ここでは、ある大手企業の暴力団との関係遮断事例を取り上げ、教訓等を交えて詳しく紹介することとする。
 《事例9 興行大手上場会社の関係遮断における「同社役員等に対する先行的保護支援活動」》
 <事件の発端>
 一般人Aが大手興行会社経営の施設駐車場の警備員に対し、暴力団B一家の名を騙って駐車したところ、この事実を知ったB一家組員がAに因縁をつけて不当要求するという事案が発生した。Aが警察に相談したため、警察はB一家組員の行為に対し中止命令を発出するとともに、大手興行会社に対しB一家との関係を懸念し遮断を促した。大手興行会社は、これを契機に、長年にわたるB一家との関係を今ここで断ち切らなければ企業の存続に関わる重大な事態に陥りかねないと危機感を抱き、暴追運動に熱心な弁護士に相談した。
 同弁護士は、企業トップのB一家との断絶の決意を確認した上で、警察の協力がなければB一家との関係断絶は不可能だと考え、企業トップとともに警察を訪ね、B一家との関係遮断への全面的支援を要請した。警察は企業グループの関係遮断を全面的に支援することを約束した。
 <先行的身辺警戒・保護支援>
  大手興行会社グループは不法勢力との関係遮断を実行するために、コンプライアンス委員会、専門担当室等の組織作り、規約・使用細則・契約書の全面見直し(暴排条項の徹底)、民暴対応マニュアル(総論・各論)の作成と社員教育、関係遮断スケジュールの管理と断絶通知の作成・回覧、仮処分等の法的手続の準備を行ったが、関係遮断を実現する最大の推進力となったのが、先行的保護支援の早期実践であった。
 まず、企業関係者から、社長以下役職員、担当社員、遮断担当弁護士等保護支援を必要とする者をリストアップする。そして、関係都道府県警察担当者に保護対象者の身辺警戒・保護連絡要請を行い、保護対象者の所轄警察署において重点的警戒対象者として、暴力団対策担当責任者及び最寄りの交番が連絡をとりあって、1日数回のパトロールを実施し、パトロールメモを通して保護対象者に警戒の内容を知らせた。
 <教訓事項・エピソード>
 このように、関係遮断を実行するはるか以前の準備段階から、警察が組織を挙げて身辺の警戒・保護連絡を先行させて実施した結果、企業関係者は家族を含めて勇気づけられ、強い決意をもって関係遮断に臨むことができた。
 中には、交番の警察官が役員宅に対して重点的警戒を実施し、パトロールメモを投函したことで、その役員の妻が勇気づけられ、役員も妻から叱咤激励されて決意を新たにしたというエピソードがある。
 (5) 暴力団員の組織離脱・社会復帰の促進
 暴対法の施行によって、かなりの暴力団員の組織離脱傾向が顕著となったことから、その促進を図るため、離脱の阻害要因となっていた指詰めや入れ墨の強要等を規制する同法の改正が行われた。そして、暴力団離脱者の就労、社会復帰対策を推進するため、各都道府県単位に警察、職業安定行政機関、協賛企業等によって構成される「暴力団離脱者社会復帰支援協議会」が設立された。
 暴力団対策の究極の目的は、暴力団員の更生であることから、常に、暴力団員が組織を離脱し更生を真剣に考える環境をつくりつつ、そのタイミングをはずすことのない離脱・就労等の支援を施して更生を成し遂げさせなければならない。このことは、暴力団の根絶につながる組織内の不正告発を促すことにもなることから、本来、最も力を注がなければならない支援活動といえる。
 「暴力団離脱者社会復帰支援協議会」のネットワーク活動を更に充実させることは、有効な先行的支援活動につながることとなる。近時、再犯者による凶悪事件の発生を受け、関係省庁間で前歴者情報を活用する制度づくりや社会復帰支援のあり方等が協議、検討されているところであるが、再犯・累犯を繰り返す暴力団対策においてこそ、刑務所、保護司、保護観察官等との連携による真の矯正を含めた支援活動が必要である。
 また、就労受け入れ先となる協賛企業等が少ない現状から、幅広い職種の企業を多く確保することが急務となっている。企業の社会的貢献(CSR)として呼びかけるなど協賛企業を確保する広報・啓発活動は、就労・更生への先行的支援活動につながる。
 一方、組員の離脱行為は暴力団にとって組織維持の根幹に係る問題であることから、離脱者に対して見せしめ的な加害行為に及ぶことが非常に多い。そのため、離脱者(離脱希望者)及びその関係者の身辺の安全が確保できなければ、暴力団からの離脱を促進することは不可能である。
 特に、離脱者の住民登録は、居住、就労等の契約上必須の条件となるところ、住民登録をすることにより所在を突き止められ生命身体に危険が及ぶ恐れが高いことから、住民基本台帳法に基づき「住所地の移動についての開示を拒む」支援措置が求められる。
 《事例10「県・市」当局への働きかけにより、暴力団離脱者の住民登録における「閲覧等の禁止」支援措置を取り付ける》
 <就労・住定には「住民登録」が前提、「閲覧」により発見される不安>
 A県に本拠を置く、B会系暴力団C組員は、暴力団組織からの離脱を決意して婚約者とともに身を隠しモーテル等宿泊所を転々とした。D県E市内に就労と居住先を探す段階でD県暴追センターに相談、支援を求めた。C組員は、就労契約とアパート住定に伴う賃貸借や就労に伴う契約には「住民登録」をしなければならず、住民登録をすることによる所在の判明とB会系暴力団追手によるリンチ等の危険を極度に恐れていた。
 <閲覧等の禁止支援措置を検討>
 D県暴追センターで検討したところ、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(平成13年法律第31号。以下「配偶者防止法」という。)及び「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(平成12年法律第81号)による「ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為」の被害者と同様に「住民基本台帳の閲覧等の制限」についての支援をすることとし、D県担当課及びE市役所に対し支援措置の必要性を具体的に説明して依頼した。
 <関係県連携による支援措置の実現>
 その結果、C組員の前住所地のF県G市役所の協力とD県警察の意見書を取り付ければ実施できる旨の回答を得た。D県暴追センターは、F県暴追センターを通じてG市役所にその旨要請、同市役所の協力とD県警察の意見書をE市役所へ提出、住民基本台帳の閲覧等の制限」措置が決定した。離脱したC組員は、その後定住、就職を果たし平和に暮らしている。
 <教訓事項>
 D県暴追センターにおいて、配偶者防止法、ストーカー行為等の規制等に関する法律に着目し、住民基本台帳の閲覧等の制限について「ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者」と同様の措置が取れるものと前向きに検討をなし、関係する県及び市当局に対して粘り強く説明支援を要請したことが功を奏した。
 《事例11指定暴力団二次組織「離脱組員の告発的自供」により同組織トップ以下の企業対象暴力事件を立証、同事件検挙を通じて同組織を壊滅させる》
 <タイムリーな報告と暴力団捜査主管課トップの離脱支援専従態勢指揮>
 指定暴力団D会B一家C幹部は、B一家総長以下の資金運用等の汚さに嫌気がさし、かつて取調べを担当したA暴力団捜査主管課のE主任に離脱希望の相談をした。同報告を受けたA暴力団捜査主管課長は、E主任の属する係長に対して同主任を中心とする専従班編成による離脱支援活動を命じた。
 <捜査員一丸となった離脱支援活動の継続>
 E主任ら専従班は、C幹部の妻子を含め居住先の安全、子供の学校等の手配など細かな配慮による保護支援を施し、C幹部の離脱後においても、同人及び家族らに対し固定カメラの設置等による身辺の安全確保の措置を1年余継続実施した。
 <保護支援の徹底によって信憑性ある供述を得て事件立証、検挙、同組織を根絶>
 専従班による保護支援を継続中の某日、C幹部から1年6月前に発生したF上場会社に対するけん銃発砲事件について、「F社社長の妹婿の負債整理に絡み、同社の利権を得ようと画策し、F社長を脅すためB一家幹部全員が絡んでやったもので、総長の命令で俺がF社にけん銃を撃ち込んだ。全部を清算して堅気になる。」等の話がもたらされた。
 本人及び家族の身辺の保護支援を施しつつ詳細な自供を取り付け、裏付け捜査により、同一家総長以下16名を一網打尽とし、実刑判決を得て隔離する過程で同一家は壊滅に至った。
 <教訓事項>
 暴力団組織内不満分子の離脱希望の相談を報告したE主任、これを取り上げ早期に離脱支援専従を命じたA主管課長の好判断。そしてこの支援活動を組織的に継続実践したことから、離脱希望対象の組幹部に組織犯罪の端緒情報の提供を促すこととなり、提供者自らが被疑者となる同組織トップ以下主要幹部全員が絡む企業対象けん銃発砲暴力事件の自供を得た。この一人の離脱者の自供のみで関連証拠を収集するなどして同組織を壊滅させることにつなげた。

 4 先行的支援システム構築の事例
 先行的支援活動を着実にかつ効果的に実践するためには、警察はじめ関係機関においてこの活動が自ずと実践される「システムの構築」が切に望まれるところである。
 ここでは、事例として「公共工事に関する暴力団排除施策『広島方式』」と「再開発地区からの先行的暴力団排除施策」を取り上げる。これらの施策が暴力団被害(業)者等に対する警察、行政、暴追センター、弁護士による先行的保護支援を実践するシステムとなって構築されていることを紹介する。
 《事例12公共工事からの暴力団排除施策「広島方式」による先行的保護支援活動》
 <広島方式の概要>
 平成15年7月1日から広島県において施行された、公共工事からの暴力団排除施策を「広島方式」と呼称している。
  県発注の公共工事に関し、建設業者に対して暴力団に限らず不当要求や工事妨害(不当介入)があった場合、次記の対応をもって業者を支援するシステム。
  業者は県との工事請負契約により、不当介入を受けた場合県に報告するとともに警察署に届出をする(報告・届出を義務付け、怠った場合は指名除外)。
  県は、その対応について業者と共同して協議し、必要に応じて現場に出向くなど指導にあたる。
  警察は、県内の全署に設置している「公共工事不当介入排除専門官」が業者からの届出に応じて事情聴取や調査、状況により警告、捜査を進める。
  不当介入については、県や警察と共に暴追センターや弁護士が連携して業者からの相談受理や指導、保護連絡、警戒等の支援にあたる。
 <不当介入・泣き寝入り実態>
 摘発された事件から、広島県内に3団体ある指定暴力団の全てから業者に対して「工事金額の2〜3パーセントの数字が出せんのか。」「3,000万円以上は調整料1パーセントもらっている。」などの不当要求行為がある実態が判明、業者は報復による工期が遅れる等の後難を極度に恐れ、要求に応じていたため、不当要求は当然の権利のように続き、これに従う金銭の交付が恒常化していた。
 <施策実践後による効果>
 この施策「広島方式」の目玉は、業者に「報告」「届出」を義務付けたことにより、早期に被害業者等に対する支援活動が実践できるシステムとなっていることである。泣き寝入り等の事情で潜在化していた暴力団の不当要求実態を県(行政)や警察が早い時点で把握できるようになり、警察・行政等による先行的保護支援活動ができることとなった。
 この結果、業者からは、早い時期に関係機関の理解を得ながら身辺と事業所の安全を含めた支援を受けられるので報復による工期の遅れなどの心配が払拭され、「要求を断りやすくなった」との声が多く聞かれ、警察・行政の警告、警察の検挙活動が増加したことによる業界の「あきらめ構造」が打破されることとなり、恒常化していた「要求を断れない関係」を遮断することにつながった。その後、中国全5県に波及、行政、警察、業界が一体となって成果を挙げている。
 平成17年4月5日付中国新聞は、「広島方式導入、国に要望」の見出し記事で、中国5県の業界団体が、成果を挙げている本取組み導入を求める要請書を、国発注工事を管轄している中国地方整備局に提出した、と報道している。
 《事例13再開発地区の暴力団排除施策「先行的地区暴排協結成」による保護支援活動》
 <再開発地区暴排対策の必要性>
 近時、国の都市再生事業の推進方針と相まって市街地において大規模な再開発事業等が相次いで実施されており、計画段階のものを合わせると全国的にも多く見られるところである。
 開発・建設事業には、既設建築物の解体業者・産業廃棄物の処理業者・建設業者・不動産業者をはじめ、電気・水道・ガス等のライフラインを担う業者等多くの業者が関係しているところである。これら事業に対して暴力団等が、自ら事業に参加するほか、参加企業等への下請け参入等を狙って、事業計画・解体・建設工事・入居等各段階において、口実を設けた不当要求、街宣活動による揺さぶりを行うなど、資金獲得を目的とした不当な活動を行う実態が見られる。
 このような実態に即し、事業計画の早い段階から、先行的に暴力団排除対策を積極的に推進する必要がある。
 <再開発地区に先行的に暴排協議会を結成>
 警視庁は、平成14年8月1日付、警視庁組織犯罪対策本部(現、組織犯罪対策部)長の通達をもって、以下のような具体的な推進方策を示した。
  各警察署は、担当者を指定し自署管内の再開発事業等を計画段階から早期に把握し、暴力団対策課(現、組織犯罪対策第三課)宛報告する。
  関係警察は暴力団対策課と連携する等により、事業関係責任者、関係自治体等担当者等との連絡を密にして、早期に暴排連絡態勢を確立する。
  関係警察は暴力団対策課、暴追センター、関係自治体との連携を密にして、情報交換会、研修会、不当要求防止責任者講習等を実施しつつ、「暴力団排除連絡協議会」等の暴排組織設立を働きかける。
  暴排組織設立に当たっては、設立準備会を先行して発足させ、役員、会則、会員、発足式における暴排宣言等を決定する。
  再開発地区の見やすい位置に「施工主体・警察・暴対センター・行政機関等」連名の「暴排宣言看板」を掲示する。
  暴排組織の設立は、解体、工事着工、入居等の各段階に応じた関係者による実質的な組織を結成。その都度、総会、協議会、講習等により暴排の決意と警察、暴追センター、関係機関との連携などについて確認する。
 <施策実施の効果>
 各開発地区において、工事着工前の段階から発注者、元請業者、行政機関、警察、暴追センター及び弁護士からなる暴排組織が順次結成され、「暴排看板」の設置や「弁護士」「警察OB」等が配置されることで実質的に官民一体となった支援が展開されることによる、暴力団等からの不当要求を「断る」態勢の構築がなされた。その結果、迷惑料の支払い・下請け参入・物品押し売りなどの不当要求について、ためらうことなく相談する姿勢が堅持されるようになった。
 ゼネコン等工事関係者からは、「早期に看板を掲げて警察や行政、暴追センター、弁護士がスクラムを組んでいる姿勢が現場責任者を勇気付け、断る力が向上した」との声が多く聞かれ、特に、暴力団等との関係があった建設企業関係者からは、「現場を理解し支援していただいたことをきっかけとして関係を遮断をすることができた」等大きな反響がある。


 W おわりに
 〜先行的支援活動定着のために〜
 暴力団犯罪被害者等に対する支援のあり方を考える時、一般の犯罪被害者等の支援のあり方とは異なり、暴力団組織が醸し出す特有の威圧感が市民と接して存在していることを認識しておかなければならない。たとえ暴力団員が検挙されてもその組織が存在している限り、暴力団の脅威が解決されたわけではなく、もし暴力団を訴えた場合にはそのお礼参りの恐怖は絶え間なく襲う。
 「一力一家事務所撤去事件」弁護団の活動過程で暴力団の凶刃を受けながらも訴訟にあたった三井弁護士は、暴力団排除運動について、「暴力団を憎む気持ち、憤る気持ち、それを維持する団結力。」を訴えている。
 我々は、改めてこれらの言葉を暴力団対策のキーワードとして確認し、暴力団被害者等に対し従来以上に差し伸べる手に力と温もりを込めた支援活動をもって、暴力団に対する怒りとともに暴力団追放への勇気・団結力を醸成し、暴力団に対する「泣き寝入り・あきらめ」を打破して、暴力団組織の根絶への被害申告・情報提供・組員離脱更生等を促進させなければならない。
 多様な事件・事象の常時即応に追われる等の事情のなかで、これら支援活動を先行的に推進していくためには、関係機関のトップをはじめ実務関係者が暴力団被害者等(離脱希望組員を含む)への視点を意識的にもち組織的に取り組む姿勢が必要である。暴力団がこの社会に巣食う事態への憤り、暴力団を排除する勇気と決意、被害者を支援する気概に燃える精神的支柱をもって、具体的には、早い時点で保護支援すべき対象を把握できるシステムの構築が求められる。
 その点において、事例12・13に見られるような施策は、まさに先行的に保護支援活動が推進されるなかで、被害申告・情報提供・犯罪抑止等につながる方式である。地域・職域からの暴力団排除活動と相まって、このような施策が先行的保護支援実践の「仕組み」となって全国に波及し、警察・行政・暴追センター・弁護士等の活動において組織的・総合的取組みとなって定着していくことを強く望むものである。
 暴力団壊滅への決意をこめて、本稿を結ぶにあたり、多くの被害者等を民事の面から支援し暴力団を相手に数々の難事件を勝訴に導いた熱血弁護士淺田敏一氏の言葉を紹介してしめくくる。
 「弁護士も警察も資格を超え、人として尽くさないと本当の救済ではない。」


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