2011年4月刊『巨大地震はなぜ起きる』島村英紀

 

『図書新聞』2011.7.9号 泊 次郎(地球科学史)

地震予知はできない 内部からの反逆のメッセージ

 日本の地震学の歴史は、繰り返しの連続である。すなわち、大きな地震災害が起きるたびに、「これほど大きな被害が出たのはなぜか」を問う声と同時に、「地震は予知できないものか」という期待の声が高まり、地震研究、とりわけ予知研究に多額の予算が注ぎ込まれるという歴史が、一八八〇年以来続いてきた。
 海底地震観測の分野で数々の業績をあげ、国立極地研究所の所長にもなった著者・島村英紀も、3・11東日本大震災の後でも同様のことが起きる、と予測したのであろう。本書の第一章は「地震予知は見果てぬ夢だった」で始まり、第二章「地震予知のバラ色の夢は消えてしまった」と続く。地震を予知することがいかに難しいかを、説得力をもって語っている。
 地震予知とは、「いつ」「どこで」「どのくらいの規模」の地震が起きるかを予測することである。研究の進展によって、地震が起きる場所とその規模についてはあらかた予測可能になった——と、東日本大震災前までは思われてきた。
 最も難しい「いつ」を予測するために取られた戦略は、地震の前に現れる「前兆」を見つけ出すことである。日本では地震予知を実現するための国家的なプロジェクトが一九六五年からスタートした。その結果、本震の前の前震、地震活動が異常に静かになる静穏化、震源付近での地震波の速度の異常、地磁気や地電流の異常、地下水のラドン濃度の異常、地殻が異常に沈降・隆起していた例など、数多くの「前兆」が報告された。
 同様の戦略は、中国や旧ソ連などでも採用された。その輝かしい成果として喧伝されたのは、一九七五年に中国遼寧省で起きた海城地震である。この地震では、さまざまな「前兆」が同時に現れたために、地震の九時間前に地震警報を出すのに成功し、死傷者を大幅に少なくできた。ところが、翌年北京から北東に約二百キロ離れた唐山で起きた地震では地震警報を出せず、二十四万人以上が犠牲になった。「バラ色」の時代は短かった。
 「前兆」が何もないのに、大地震が起きた例や、「前兆」らしきものが現れても、大地震が起きなかった例も多かった。「前兆」には何の「再現性」も「普遍性」もないのである。そもそも、地震というのはカオス的な現象なので、地震予知は原理的に不可能である、との説も有力になった。
 それでは、静岡県御前崎市の浜岡原子力発電所の直下で起きるとされる東海地震はどうなのか? 予知できることを前提に一九七八年に大規模地震対策特別措置法が制定されたではないか。
 気象庁が東海地震予知の唯一の頼りにしているのは、大地震が起きる直前に、断層がゆっくりと滑り始める(「プレスリップ」と呼ばれる)、という岩石実験の結果である。この「プレスリップ」をうまく捉えることができれば、予知できるかも知れない。
 しかしながら、「プレスリップ」は、実際の地震では観測された例が一度もない。一九四四年の東南海地震の際に観測されたという説もあるが、本当に「プレスリップ」であったのか疑う人も多い。東海地震よりも規模が大きい二〇〇三年の十勝沖地震や、三月の東北大地震でも観測できなかった。「プレスリップ」の存在自体が疑わしいのである。
 今回の東北大地震の前に、東北沖でマグニチュード9の超巨大地震が起きるのを想定できた地震学者はいなかった。「いつ」どころか、「場所」と「規模」についても予測がつかないのが現状である。「地震予測のすべての枠組みが崩れた」と語る研究者さえいる。
 東日本大震災では、一部の科学者たちが心配していた「原発震災」が現実になった。「原発震災」の影に隠れて、以上のような地震予知研究の深刻な状況に関する議論は、現在のところ低調である。
 島村はこれまでにも地震学界内部から、地震予知研究の空しさを語ってきた。身に覚えのない罪を着せられ、学界から“村八分”的な扱いを受けたのも、この故なのであろう。本書では、地震予知だけでなく、地震はどこに、なぜ起きるのか、どうすれば被害を小さくできるのかなど、基礎的な知識もわかりやすく紹介されている。ともあれ、島村のメッセージをぜひ受け止めてほしい。

 

北海道新聞 2011年6月26日「ほん」面(12頁)相原秀起記者

 巨大地震や津波への疑問に答える地震学の入門書。地震のメカニズムや予知の難しさ、液状化現象のほか、最新の研究成果についても豊富な図を添え、平易に解説する。元北大教授である著者は、奥尻島に大きな被害があった1993年の北海道南西沖地震後、日本海の海底に地震計を設置し研究。分かってきた北海道周辺におけるプレート衝突の理論も興味深い。

 

『Jレスキュー』2011年7月号 島村英紀(地震学者)インタビュー

──地震研究も専門が細かく分かれていますが、島村さんは何を専門にされているのですか?
 海底地震です。なぜ海底地震かというと、日本の地震の85%が海底で起こり、さらに日本に起きるM8以上の地震は100%海底で発生しているからでず。地球の表面はプレートという卵の殻のような固い岩でおおわれていますが、それが生まれるところも無くなるところも海の底。地球のダイナミックな事件はすべて海底で起こっているので、海の地震を研究しなければ地震や地球科学的な事件そのものの研究もできないのです。

──本書「巨大地震はなぜ起きる」の冒頭で、地震の発生を予知することは大変難しいことであると書かれていますが、地震を科学的研究で予知することは不可能なのでしょうか?
 研究者としては予知できるようにしたいところですが、調べれば調べるほど不可能であることが明らかになってきました。私も研究を始めた当初は、20~30年後には予知できるようになるという見通しを持っていましたが、地球の内部で地震がどのように準備され、やがて起きるのかはまだ解明されていません。また、大きな地震の前に起こる前兆を見つけて予測するという手法も有望かと思われましたが、この前兆も法則通りに起こるとは限らないのです。
 実は研究者の視点で見ると、今回の地震ほど予想しやすい地震はなかったのです。もっとも前兆が出やすいと言われる海溝型地震で、震源も岩手県沖から茨城県沖までひろがっていて、とても大きい。近い将来の発生が危慎されている東海地震と同じタイプでした。
 東海地震はプレスリップ(前兆すべり)によって予知できると言われていたのですが、残念ながらそのプレスリップが今回は全く観測されませんでした。科学者が事前に警告を出して予知できた地震は過去に一度もないのですが、その悪い記録を今回もまた更新してしまったのです。

──東北地方太平洋沖地震の影響で、今後も地震が起こる可能性は高くなったのでしょうか?
 今回の地震によって、宮城県の牡鹿半島では地面が5.3メートルも移動する地殻変動がありました。一部にこれだけの歪みが生じれば、そこだけズレたままでいるわけがないので、連動して関東地方や東海・東南海、南海地方で地震が発生する可能性も高くなるでしょう。
 かつて関東大震災が起きた首都圏も、日本のほかの地域と同様、いつどこで起きてもおかしくないタイプの地震が起きる可能性があります。阪神淡路大震災などは、何百年に1度の大地震と一般には思われていますが、じつはM7クラスの地震は国内でも年に1~2回、定期的に発生しているくらいの地震です。問題はそれがどこで起きるかで、阪神淡路大震災の被害が大きかったのは、人口稠密地帯を襲ったからです。同等の震度だった鳥取県西部地震では死者が1人もでませんでした。しかし、これが東京の下町などを襲ったら阪神以上の災害になる危険性もあります。

──東日本大震災では、地震よりも津波の被害が大きかったですが、海底地震では必ず津波に備えなければならないのでしょうか?
 そうとは限りません。まず海底で起きない限り津波は起きないのですが、海底地震でもプレートの滑り方によって異なります。横ずれの場合は津波はほとんど発生しませんが、正断層、逆断層の縦ずれの場合は津波が発生します。
 今回の津波では、かつて世界中の地震研究者が視察に訪れていた岩手県田老地区の防潮堤までが乗り越えられてしまいました。防潮堤は津波対策に効果があるのですが、それがあることに安心して住民が避難をしなくなるという問題もあるのです。
 三陸海岸沿いの住民は、津波の経験も豊富でしたが、それでも今回の地震では大きな被害が出てしまいました。住民は津波を知っていて、「水が引くまでは安心だ」と思っている人も多いのですが、津波は押し波から始まることもありますし、一番目の波より2~3番目が大きいこともあるのです。
 津波警報もいままでは予報より小さい津波しか来ないことが多くて効果がなくなっていました。地震が発生してから津波到達まで早くても30分程度はあるので、すぐに避難すれば助かるのです。
 気象庁は、日本海中部地震と北海道南西沖地震のときに津波警報が間に合わなかったという教訓から、地震発生後、3~4分で津波警報を出すようになりました。しかし、実際に襲ってくる津波の高さを知らないまま「最大の可能性」を予報しています。その結果、「津波警報が出ても津波は大したことない」とオオカミ少年効果で住民は警報を信じなくなっているのです。それも今回の地震の惨事に繋がってしまったのです。

──今回、「巨大地震はなぜ起きる」が再編集されて緊急出版されたのは、東日本大震災で一般の方が地震に関心を持ち始めたからですか?
 普段、地震火山はなかなか一般人に関心を持ってもらえる機会のない分野ですから、少しでも地震を身近に感じるこの機会に是非知ってもらいたいと思いました。地震がどのような現象であるかを知ってもらう事は、間接的ですが減災につながります。
 地震の研究もこの30年で目覚ましく進歩しました。30年前には知られていなかった日本海にあるプレート境界の存在も、海底地震計による余震の観測などによって明らかになってきました。このプレートの発見で、計画が進められている放射性廃棄物の埋め立て予定地もプレート境界に近いことが分かってきています。
 地震は自然現象なので、それ自体を人間が止めることはできませんが、震災はそこで人が生活をしているから発生する社会現象です。だからこそ、人間の知恵で減らしていくことも出来るのです。その滅災へ向けた活動の一つとして、一般の方にも本書を読んで地震の全容を知っていただければと思います。

 

『ジャーナリスト』2011年5月25日 塩谷喜雄(科学ジャーナリスト)

地震予知は超未来技術──安易な過信は禁物

 東日本大震災とへ東京電力福島第一原子力発電所の事故は、日本社会の基底をむしばむ神話と幻想のせいていき害毒を白日のもとに曝した。
 原発安全神話の持つ「科学的な装い」を徹底的にはぎとって見せるのが、小出裕章『隠される原子力 核の真実―原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)だ。事故前の昨年末の発行だが、原発が抱える技術体系としてのリスクとエネルギーとしての質の悪さを明快に描き出している。気になるのは、地球温暖化について、二酸化炭素原因説をさしたる科学的根拠もなく論難している点で温暖化が原発推進の口実に使われているだけに、坊主憎けりや袈裟まで……ということなのだろうか。
 地震国日本が、世界の学界では占いの一種としかみられていない地震の直前予知を、大規模地震対策特別措置法(大震法)という法律で、防災の基本に据えている愚を、諄々と説いて、読者にやさしく震災の覚悟を迫るのが島村英紀『巨汰地震はなぜ起きる』(花伝社)だ。
 著者は、元国立極地研究所長。予知幻想をふりまいている東大地震研を中心とする日本の地震学者が捨てた「地球科学的良心」を維持している数少ない人物で、現在の地震研究の到達点を、わかりやすく説いてゆく。地下深い場所で起きる破壊現象―地震の予測に関し、日時・場所・規模を特定し、発生の2、3日前に予知することは政府の技術予測でも30年先でも可能かどうか不分明な超未来技術であることを肝に銘じたい。
『日本の原発 あなたの隣にあるリスク』(新潮45別冊)は、原発事故後に出た緊急出版本の中では、充実している。日本の原発すべてについて、炉の型や出力のほかに、想定している地震動の強さ(重力加速度)、津波の高さ、施工業者、炉のメーカーまで、詳細情報が整理されている。評者も同書に一文を寄せているが、気のきいた注釈や解釈よりも、事実は雄弁だ。