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「緑の大地計画」の天王山
――私たちを根底から支えるのは温もりと和やかさ


PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス=平和医療団日本)総院長
ペシャワール会現地代表 中村哲
ペシャワール会報114号より
(2012年12月12日)


「緑の大地計画」最大の挑戦

みなさん、お元気でしょうか。

当地も初冬にさしかかり、高山が薄化粧をしてきました。川筋の風が冷たくなり、防寒具が要る季節になりました。

相も変わらず、河の工事に追われています。アフガンでは、渇水期です。河の水位が思いきり下がり、毎年今頃でないと取水堰や護岸の工事ができないのです。

今年はまた、特別です。昨年10月から準備してきたカシコート取水堰工事が、のるかそるかの段階に差しかかっているからです。

PMS(平和医療団・日本)=ペシャワール会では、カシコート復興を「緑の大地計画」の天王山と位置づけ、大規模な工事が進んでいます。

本工事が過去10年の「緑の大地計画」の最大の挑戦だと考えて差し支えありません。対岸400メートル先には、マルワリード用水路の取水口が見えます。対岸では同水路の灌漑によって、25.5キロメートル全流域が殆ど無駄のない土地によみがえり、15万人以上の人々が故郷に戻り、自活できるようになっています。しかし、取水口は一昨年の大洪水で相当傷み、改修を余儀なくされていましたが、両岸の対立が根深く、対岸からのアプローチが出来ずにいました。


クナール河上流から見るカシコートとマルワリード取水口(幅は約500m)

堰の一体化

ところが、昨年秋、カシコート自治会とPMSとの和解・協約が成り、同地域の灌漑計画が動き出しました。計画が成功すれば、陸の孤島であるカシコート全域が難民化から免れ、同時にマルワリード堰の安定が保証されることになります。つまり、マルワリード=カシコートとの堰が一体化され、維持が約束されるからです。

しかし実際の工事は、相手が大自然です。連続堰の長さ約500メートル、それも2010年夏の大洪水で流失した砂州を復旧しながら、大河クナールを横断する作りです。生易しいものではありませんが、12月中旬で大勢が決すると見ています。

現場はさながら戦場です。重機九台とダンプカー16台、精鋭の作業員200名を集中、必死の作業が整然と行われています。


主要河道:マルワリード=カシコート堰(①~⑥は河道)


作業場が川べりに集中、河道⑤、護岸壁、取水門、河道④、中州復旧、河道③閉塞の各作業


カシコート取水門の柱=堰板を積む溝(2012年11月4日)


カシコート取水門背面

緊迫した努力

長い間PMSの工事に携わってきた彼らは、取水堰が地域の生命を握ることを知っています。成功すればカシコート2500ヘクタールもまた、マルワリード流域と同様、多くの農民が戻って生活を維持できる。失敗すれば……逆にマルワリード側が再び沙漠に戻り、十数万人が路頭に迷うのは確実です。その分かれ目が、ここ数週間に迫っています。詳しくは、追って紹介します。

当方は覚悟して総力を結集、過去最大規模の工事となりました。事務所と現場、PMSと地域が一体となり、文字通り命綱を守るべく、緊迫した努力が傾けられています。まともな救援が寒村に届かぬことを誰もが知っています。おそらく、これほど組織化され、熟練した集団の動きを見ることは無いでしょう。戦局や政治の行方など、とっくの昔に興味を失いました。


マルワリード用水路のガンベリ沙漠末端から送水される、シギ地区へのサイフォン造設中(2012年10月22日)


カシコート側主要河道  取水門周辺の概念図

河道④:傾斜0.025  低水位河道                
河道⑤:主要部、傾斜0.017  低水位河道    
:砂州寄り、傾斜0.010  高水位河道
河道⑥:砂州、堤防間、0.0010  高水位河道

悪意ある噂

去る11月5日、工事現場の対岸で小さな戦闘らしきものがあり、建設中の水門付近に対戦車砲弾が三つ着弾しました。米軍の空爆演習もサルバンド村で日常化し、時々怪我人が出ます。迷惑な話です。作業員はそれを殆ど無表情に眺めていましたが、「PMSが狙われた」という悪意ある噂が流される気配があったので、ジア先生が治安関係、地方政府筋と飛んできて事実を確認し、誤報を打ち消しました。

地域自治会は、「PMSの邪魔をすれば、カシコート8万家族を敵にする」と異例の宣言、工事は何事もなく進められています。PMSが勇敢だとか、地域農民の情が厚いとかいう話ではなく、皆がそれほどの瀬戸際に立たされているということなのです。


地縁・血縁を超え、地域で重きを成す実力部隊。この仕事を支える大きな柱の一つ。

理屈も評論も虚ろ

時々流されるアフガン情勢は、戦局や危険情報、復興支援をめぐる報でなければ、それに対する評論ばかりです。いくら安全や人権が主張されても、一般のアフガン人の生命や人権は含まれていないようです。

もう静かにしておいて頂きたい。そう思います。見捨てられた人々の声が届くことは、今後もないでしょう。あっても、情報の洪水と議論の中で薄められ、伝わることはないと思います。ここでは、どんな理屈も評論も虚ろです。それよりも、餓えた人々に温かいパンの一切れを分かち合おうとする真心だけが、励みであり、信ずるに足ることです。

生殺与奪の権を握る自然の大河は、轟々と流れ、真っ白な水しぶきをあげて岩に砕け散る。それが何かを語るようです。人を欺かぬメッセージに耳を傾けます。

何もアフガンだけが困っている訳ではありません。しかし、平和とは生きた力です。どんな事情にあっても、私たちを根底から支えるのは、そんな人の温もりと和やかさであって、批評や「情報」ではありません。まして暴力や政略は論外です。

日本も寒々とした状態が続いていると聞きましたが、これまでの温かい支えと、変わらぬご理解に感謝申し上げます。

良いクリスマスと新年をお迎え下さい。

ジャララバードにて


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