PMSへの期待の大きさを日々痛感

PMS医師 仲地省吾
ペシャワール会報76号より
(2003年07月09日)

PMS病院で診察を待つ患者さん達
(2003年3月撮影)
45度を超す暑さですが…

ペシャワールに来て1年が過ぎて、2度目の夏を迎えています。新聞紙上では最高気温が45度前後と発表されるような猛暑ですが、だいぶ慣れてきたように思います。

これまで携わってきたPMS病院の医療内容について感想を報告いたします。

去年の終わり頃は、外来患者さんが徐々に減ってきて、一時はどうしたんだろうと考える程でしたが、今年に入って再び急増してきています。時には受付数を制限する程です。再び患者数が増加している理由はいったんアフガニスタンに帰った難民がまた戻ってきていることや、ペシャワール市内にあった難民対象の他のNGOの医療施設がカブールに移動してしまったことなどが考えられます。

当院は市中心部から、かなり離れた交通の不便な所にあるにも関わらず、患者さんはバスやタンガ(馬車)を乗り継いでやってきます。ペシャワール市内に限って言えば、医療施設は他にたくさんありますので、当院への期待は大きいのだと実感させられている所です。

入院患者についてはペシャワール近郊だけでなく、アフガン内の東部、北部、カブール市内からも当院に入院治療を求めてやって来る患者さんがたくさんいます。そのような患者さん達はただ単にパキスタンの医療を求めて来るのではなく、このPMS病院を目指してやって来るらしいので、当院の"名声"(?)はアフガンの広範囲に広がっているのがわかります(当院ドクター達の説明によります)。

当院は特に高度医療をしているわけではありませんので、時にはそのような患者さんの要求とは多少ギャップがあることがありますが、できるだけ期待に応えるようにしてあげたいと職員も頑張っています


PMS病院外来診察室での診察風景
右端は白井医師
「老人問題」は存在しない

疾患の特徴については、日本の一般病院とはだいぶ異なります。もちろん日本にはない熱帯に特有な疾患がたくさんありますが、一番違うのは高齢者の入院がほとんどないことです。

全人口に占める高齢者の割合はまだ少ないですが、日本のような社会的な「老人問題」はなさそうです。ここでは核家族や単身者が一軒の家やアパートを借りるという環境はほとんどなく、みんな大家族世帯で一緒に暮らしています。

しかも女性はほとんど家にいます。ですから「寝たきりになったから」とか、「世話が出来ないから」などの理由で入院を求めてくる人はいません。また末期患者さんであっても、予後を説明すればあっさりと家に連れて帰ります。

乳幼児疾患の背景に母親の栄養不足


1歳を過ぎても体重が数キロしかない子供もいます
最も多いのは乳幼児の感染症に伴う脱水です。冬は呼吸器感染症で、夏は下痢の胃腸炎です(腸チフスも多数)。その子供達に共通しているのが、貧血と低栄養です。

私は小児科医ではありませんので、日本の小児医療の現状は詳しくはわかりませんが、当院で入院してくる小児の血中ヘモグロビンはほとんどが7〜8g/dl くらいです。これはかなりひどい貧血ですが、今ではこの数字にすっかり慣れてしまいました。時には5g/dl 前後のことも多く輸血をすることもあります。貧血と同じ意味になりますが、当然低栄養であり、1歳を過ぎても体重が数キロしかないというのも多数あります。

この貧血や低栄養は母親がきちんと母乳を与えている場合は起こらないようです。母乳が与えられなかったり、人工乳や離乳食を開始されると、とたんに低栄養が始まるのです。子沢山と不衛生がその原因です。

ここの女性は結婚してから十数年以内にかなりたくさんの数の子を出産しますので、新しい子が産まれたとたん上の子が低栄養化するのです。極端な低栄養で入院した小さい幼児の側で丸々と栄養状態のいい弟が一緒のベッドで寝ているというのも、よく見られる光景です。

用水路作業現場近くの仮診療所にて
炎天下で働く人々の健康診断、
外傷治療をする仲地医師(左)
私は日本では考えたこともなかったのですが、人工乳や離乳食を作るのに、ほんとに細心の注意が必要だというのがよくわかります。ここではまだ環境自体が不衛生なところがありますから、きちんと消毒された容器、湯、手法を用いて人工乳や離乳食を作らなければ、まず間違いなく下痢を起こします。

それが繰り返されたら低栄養に進行するのです。低栄養は感染を起こし、それがまた低栄養を悪化させ、悪循環に陥ります。

これを改善するのは大変難しい問題です。教育や環境の改善はもちろん、社会そのものが豊かになる必要があります。しかしパキスタンは1980年代で8000万人台だった人口が20年足らずで今は1億4千万人に増えていて、上記の改善をするには大変気の遠くなるような感じを持ちます。

WHOは1歳8カ月までの授乳と、かつ出産に3年間のインターバルを置くように発展途上国では勧めています。ここにいるとこれはとてもよく理解できる勧告だと思いました。

感染症というと、マラリアや腸チフス、リーシュマニア症など熱帯に特有な疾患以外に結核が多いのが特徴です。肺結核がほとんどですが、腹部の結核が疑われる症例も多数です。1週間に1、2例は排菌陽性の結核患者が入院してきます。

当院には簡易集中治療室を除いて、個室はありませんので、結核患者も大部屋で他の一般の患者さんと同じ部屋に入院します。日本であれば、他の患者や職員への院内感染の可能性があるということで大問題になるところですが、私が観察する範囲では院内感染はまったく起きていないので、不思議です。

日本と違う各個人の抗体(抵抗力)が原因かもしれませんが、単に幸運だっただけの可能性ももちろんありますので、近い将来は個室なども整備できればと考えています。

もう一つ気になるのは、血液疾患(白血病や汎血球減少症)が多いことです。ドクター達の話によれば、長年の戦争でいろんな毒物(放射能も含めて)がまき散らされたからではないかと言います。もちろんはっきりとした因果関係(証拠)は何もありませんが、気になることです。

以上、日本とはかなり疾患が違いますし、設備に関しては日本とは比較できないぐらい不十分かもしれませんが、私はここに来て以来、このPMS病院が日本の病院より劣っていると思ったことは一度もありません。医師や看護師などの医療スタッフはみんなとても優秀で真面目です。もちろんここまで来るのに、中村医師を初め多数の人たちの苦労があったのだろうというのはとてもよく理解できます。私自身もPMSがもっと発展するようにささやかでも貢献できればと思います。


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