人材も作物も、大切に育て続けましょう

農業指導員 高橋 修
ペシャワール会報77号より
(2003年10月15日)
農業担当・橋本ワーカへ宛てた手紙です。
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試験農場の現地スタッフ、高橋指導員、橋本ワーカ
(左から)
7月の下旬、橋本さんが一時帰国されていた時にお目にかかってからもう2カ月経ちました。1カ月余の休暇中、ご家族の皆さんとの団らんを満喫され、また友人の方々と旧交を温められたことと思います。

8月22日に、成田空港から電話をいただき、元気いっぱいで帰任される橋本さんにホッとしました。失礼ですが、里心がついていないかと少し心配していたのです。同時にジーンと胸に応えるものがありました。お許しいただいて率直な感想を述べますと、自分の息子の旅立ちを見送る心境でした。

アフガンに帰任されてから早1カ月経ちました。恐らく今頃は、ご家族、友人に対する態度と同様に、現地のスタッフ・農家と一緒になって、毎日を忙しく過ごしておられることと想像しています。


現地スタッフとの打ち合わせ
私が初めて橋本さんにお会いしたのは去年(2002年)の6月、私が2回目に現地を訪問した時でした。昨年3月に開始したペシャワール会の“緑の大地計画”(農業計画)のパイロットファーム(試験農場)で、砂混じりの熱風が吹き付ける中で作付計画を相談し、一緒に飼料作物を播き、お茶の苗を植付けました。また農家との話し合いにも同席しました。

その後、昨年の9月、今年の3月と3回、現地で橋本さんと一緒に仕事をしてきましたが、お会いする毎に橋本さんの存在感が高まっているのを実感しました。私が「〇〇の準備をしておいたら?」と提案しても、橋本さんは、大半の事柄について「担当農家に任せておいて大丈夫でしょう」「ワリー(現地スタッフ)が知恵を出してくれます」と、一向に動じる様子が無いのです。そのためにこちらは余計にイライラが募るのですが、蓋を開けてみると憎いほど橋本さんの予言が当たり、脱帽させられました。私は気が小さいためにあれこれと先回りして心配する癖があり、橋本さんに無用の気遣いをさせたと申し訳なく思っています。

橋本さんの見通しの確かさは、まず相手を信じることによって、相手を“期待に応えなければ”との心境にさせていることにあるように感じました。もちろん無原則に相手を信じられているのではないようにも思っています。例えば、朝仕事にかかる前に今日の予定を、夕方仕事が終わった時に反省事項を出し合い、同じ目線で現地スタッフ・関係農家と意思統一をされています。また毎月一回、討議方式で綿密に打ち合わせをされていますが、この時の橋本さんは、時には厳しく、時にはじんわりと硬軟織り交ぜ、繰り返して説明されているように見えます。感心するのは後日、打ち合わせした内容の実践状況を畑で静かに観察されていることです。討議と観察を通じて、相手の性格を理解し“信じ方”を工夫されているのでしょう。


見学に来た近所の子供たち
農業計画がスタートしてから一年半経ちました。橋本さんの努力によって農業計画を担ってくれる現地の人材が立派に育ってきました。8月末、橋本さんから帰任直後にいただいた連絡の中で、「留守中ワリーと担当農家が知恵を絞ってフォローしていてくれ、全て旨くいっているのに感激…」とのくだりがありましたね。これは人材が育ちつつある何よりの証拠だと、私は橋本さん以上に感激したことをお伝えしておきます。

これは余談ですが、夕方解散前に、誰かが日本語で「今日はこれでおしまい!!」と音頭をとって一斉に拍手する習慣が根付き、その辺にいる子供達まで真似をしているのに驚きました。橋本さんは本当に子供好きです。子供達が足下にまとわりついても嫌な顔一つせずに楽しんでおられます。これも農家の信頼感を得ることに役立っていると感じました。私には真似のできないことです。

橋本さんについてもう一つ感心していることがあります。去年、橋本さんは農業が初めてであると伺い、正直言って大丈夫かなと思いました。ところがなかなかどうして、私どもから提供した情報を参考にしながら、僅か1年の間に立派に農業担当者として成長されました。橋本さんの指導で、ソルゴー、アルファルファー等飼料作物の素晴らしい生育を見ることができました。また節水栽培、地力増強などの技術も少しずつ定着してきました。その秘密は、橋本さんが自然体で、綿密な作物の観察、試行錯誤、実践結果の評価、改良技術の実践、を繰り返しておられるところにあると感じているのですが間違っているでしょうか。


刈り取り中の麦畑(2003年5月)
お陰様で、技術的な面でも少しずつ目途がついてきましたが、今日まで本当にたくさんの困難と失敗もありご苦労をお掛けしました。こまめにいただく現状報告が私の最大の関心事となっていますが、一項ごとに咀嚼しながら、あの畑のあの作物がこんなに生長したのかと、橋本さんの成長振りと重ね合わせ一つ一つ目に浮かべて感動しています。また時には、あの畑のあの作物はなぜ発芽が悪いのだろうと心配し、今、私から何をサポートすべきかと悩むこともあります。確かにまだまだ技術的には問題が多いですが、ダラエヌールに新しい農業の息吹が生まれてきていることは確かだと喜んでいます。

橋本さん、これからも自信を持って、今まで進めてこられた“人材と作物の育成を一体化した活動”を継続していこうではありませんか。いろいろご苦労が多いと思いますが、苦労を糧として、ペシャワール会の活動を通じて、より深みのある人生観を養っていただきたいと切望しています。

終わりに一言だけお願いをしておきます。橋本さんは大変健康です。またダラエ・ヌールはペシャワール会に対する信頼が厚いので安全と伺っています。しかし、日本にいても同じことですが過信は絶対に禁物です。健康と安全を守るために必要と判断される時には義理も体面も捨ててください。橋本さんが大変健康であるが故に余計に心配です。健康と安全を守ることも仕事の一環であると心得ていただきたいのです。農業は息の長い仕事です。ペシャワール会の農業計画もまた然りです。途中で挫折するよりも、少し遅れても長続きする方が遥かに重要と考えてください。  

手前勝手なことを長々と書きつづって恐縮です。元気な橋本さんに再会できることを祈りながら筆を置きます。皆さんによろしくお伝えください。


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