■ 増水を睨みながらの突貫工事で完了 ■
〔ペシャワール会・ワーカー 鈴木 学〕


取水技術を革新した中村医師

 いまアフガニスタン東部、クナール川沿いの取水口(おおむね各村には1つ以上ある)において、アフガンの伝統的な取水技術では冬季、全く取水できていなかった。近年の最大の理由としては、冬季の積雪量減少により、根雪が十分山々に堆積しないことがあげられる。このため、春になると山に積もった殆どの雪は一挙に溶け、クナール川は冬の真っ青な清流から増水した濁流に一変する。

 雪が夏まで残らないため、雪解け水を利用する現地の農業は夏以降致命的な水不足に直面する。また夏に大量の雨が一時的に降ることにより、山に木々がないアフガニスタンでは容易に洪水が発生し、これらの洪水によって冬季に住民が苦労して作った堰(一般に幅が狭く堰高は高い)はクナール川の激流に流 されてしまう。

 さらに、河道は毎年蛇行変化するため、当然河川幅も広く存在するのだが、そこに秋から冬になると年々減り続けている超低水位の河道が、これまた住民が努力して堰を伸ばせば伸ばすほど遠くへ逃げてしまう。この結果、従来の堰では冬季の取水が全く出来ず小麦は播いたものの雨水頼みにならざるを得なかった。昨年の10月半ばから4ヶ月間、まともに雨が降った日は3日程しかなく、河川から安定して取水が出来ない地域では、小麦が半分取れる年は良い方で、その後夏になると作物は殆どできない。

 以上のような状況下で中村医師がやっていることは、ひと言で云うと「河川からの取水技術の革新」である。乾燥化が進行するアフガニスタンで、これ以外に人々が生き残っていく道はないと先生は確信しており、カマ取水口およびそれに関連する工事は、そのモデルとなる可能性を十二分に持つ最重要な場所 だといえる。



増える見学者

 マルワリード水路、シェイワ水路において取水口構造物の工事を担当してきた縁でこのたび再度協力の要請があり、昨年10月半ばより中村医師とともに現場工事に携わった。

 旧知の現地スタッフ、作業員たちと増水を睨みながらの猛烈な突貫工事を開始、カマ第二取水口取水門と沈砂池末端に位置する緊急時排水門を併設した調整門の主要工事は3ヶ月後にほぼ完了し、1月15日通水試験に成功。その他にカマ第一水路において、取水口水門のかさ上げ(0.5メートル)工事や、20年以上土砂で埋まっていた崖下の暗渠(カマ第二取水口直近区間。堤防の広さを確保するためには土砂で完全に埋まったこのトンネルを復旧させ、カマ第一水路を現在の位置よりさらに崖側へ移し、その分堤防護岸を広く取り強化するという、極めて重要な意味を持つ。ソ連が建設。中村医師曰く、これぞほんとの掘り出し物”)改修工事などを終え、中村医師が天王山と位置づける旧主流河道の復旧工事に駆けつけたところでタイムアップとなった。

 2つの取水口という地理的条件を最大限生かし、河を分割して処理する中村医師の取水堰の技術と共に、取水口から1キロメートル地点までに、沈砂池と緊急排水門を備えた調節門がある。対岸を含めた日本古来の多様な護岸技術と併せて、中村医師はここにひとつの取水技術体系を実現させた。ジャララバードから20分という距離も手伝い、通水以後外国人含め見学者が続出。中村医師は今後伝播していくことを確信している。自分にとって3つ目となったカマ取水口、及び付属施設は十分な機能をもって今後住民たちの暮らしを支え続けると確信している。



「こんなに早く水が来るなんて」

 水が通った後、中村医師とカマ地区の末端まで送水状況を見に行った。どこまで行っても新緑の小麦畑が続き、住民の顔は皆穏やかで、落ち着いていた。水の具合はどう?と尋ねると、「ああ十分だよ」と笑う。「こんなに早くここまで水が来るとは思っていなかったんだ。小麦を播き損ねたよ。だから今玉葱の苗を急いで植えている。玉葱はまだ間に合うからね」と。一家総出で玉葱の苗を植えてゆく。

 昨夏のパキスタン・アフガニスタンにおける大洪水、農産物に壊滅的な被害が出た。野菜は軒並み高騰、特に料理に欠かせない玉葱は何倍にも値段が跳ね上がり庶民を泣かせた。でも僕は思う、今年は小麦も米も玉葱も庶民の喜ぶ値段で市場に並ぶだろうと。すべてが悪くなり続け、希望を見いだせないなかで、 これこそ希望そのものなのだ。

 アフガンで命の水を引き入れるために悪戦苦闘して帰国すると、日本の農業や農地、命の源である山林の水源まで危機にさらすような、とんでもない協定(環太平洋経済連携協定、TPP)を進めようとする政府や経済界の動きが、米国の本当の狙いを知らされないまま伝えるマスコミによって煽動され呆れてしまった。中村医師からもお許しを得たので、これからも一生懸命農業に励みたい。

 この度の冬季集中工事に際して、日本側から支えて頂いた事務局の方々、藤田さん、鈴木祐治くん。先に現場に入り測量を担当して頂いた石橋さん、手島さん。現地で大変お世話になった杉山さん、村井さん、そして中村先生。困難な状況下、今回も良くついてきてくれた現地のスタッフ、作業員たち。この仕 事の重要さを理解し、協力してくれた家族と妻に感謝しています。皆様、御協力本当に有難うございました。

(ペシャワール会報107号:2011年4月18日発行より)

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